女から「今晩はマンションに帰りたくないな」と言われたら男は本当は引いちゃいけないんだよな。
これは引かなかった男と女のお話
坂口陽子は、毎日同じ仕事をして、本来ならば、疲れているし、 明日の為にも、はやく家に帰って寝ようと思う。 けれど酔いが「今晩はマンションに帰りたくないな」とつい口に出して言ってしまった。彼、東出誠はタクシーでマンションの近くまで送ってくれた。経堂の駅を歩いて越えるとマンションまではすぐなんだけど。彼は年下だけどそんなに悪くない。背は高くないが、165くらいかな。私が方が低いから。本社勤めで辛うじて出世コースに乗っている。話はすごくではないがまぁまぁ面白い。まぁ先の事はわからないけど安定しているのかな。もしもの場合可能ならば私の力で人事に引っ張っても。
これを逃すと2度目はないかも。もすぐ私は40。聞くところによると人品人柄は悪くなさそうだ。大阪の結構大きな病院の薬剤長の息子だとも聞いている。先に帰った彼は175ぐらいあって、九州の薬問屋の息子だ。比べるにも彼は私には気がなさそう。と少し酔った頭っで考える。ゆっくり考えているとこのままタクシーをおろされて「さよなら」されそうだ。
中途半端な誘いに乗ると面倒な気がする。でも誘っているのは明らか。逃げるならば、今かも。ここで話に乗ったら結構年上の姉さん女房だなと考える。大阪の残してきた彼女はどうする。顔立ちは悪くないが、何かの拍子に異常に鼻の中央にしわが寄る。タクシーに乗った時同僚の狭間は気を使ってくれたような気もする。このまま据え膳食わぬは…でいただいても何も言わないよっという合図だったのか、彼女を先にタクシーに、僕が乗ったのを見計らってなのにか耳元でささやいた、。早くしないと。考えろボクチャン。
タクシーの運転手が小田急線を越えていくのを嫌がっている。ここで降ろせば終わりだ。
さぁどうする彼女を最後まで送るのか。僕のアパートに連れて帰るのはちょっと…部屋は先週出張に出た切りの状態だ。一駅戻って豪徳寺まで行けば簡単に線路を越えることはできる。しかし僕の方が先に降りるっことになる。さあどうする。
「どうします?」と運転手の声
どうしようか。彼を引き留めるならば今しかない。マンション片付けたっけ。あまり自信がない。ただこんな機会はしばらくは訪れないだろう。彼が一駅戻って駅を超える方法を考えだしている。このまま帰って何もなくても明日の朝狭間さんは変な目で見るだろうな。